スラスト(軸方向)のガタ取りは、軸方向にあらかじめ力を加える「予圧」によって内部すきまをゼロ〜負に調整することが基本です。これにより軸のガタが抑えられ、回転精度や剛性が向上します。
本記事では、ガタ取りが必要な理由から、予圧の考え方、組合せアンギュラ玉軸受・シム調整・ナット締付けなど具体的な手順、そして失敗しないための注意点までを、順を追ってわかりやすく解説します。
スラスト(軸方向)のガタとは、軸がその軸方向に微小に動いてしまう遊びのことです。通常のベアリングには微小な内部すきまがあり、これが振動やガタ、剛性不足につながります。工作機械の主軸や測定器のように高い精度が求められる機構では、このガタが加工精度や測定精度を直接低下させる要因となります。
ガタ取りが必要とされるのは、主に次のような目的を達成するためです。第一に、内部すきまをゼロにすることで軸のガタ・遊び(バックラッシ)を防止できます。第二に、軸受剛性を高め、工作機械主軸やロボット関節などで求められる剛性を確保できます。第三に、軸方向のブレが小さくなることで回転精度が向上し、加工精度や測定精度が高まります。加えて、内部クリアランスが減ることで振動・騒音の低減にもつながります。
つまり軸方向のガタ取りは、軸のラジアル方向・アキシアル方向の位置決めを正確にし、軸の振れを抑えるための重要な工程であり、精密な回転機構を成立させる前提条件といえます。
軸方向のガタ取りの基本となるのが「予圧(Preload)」です。予圧とは、ベアリングにあらかじめ一定の圧力(負荷)を与えて、内部すきまをゼロまたは負の状態にすることを指します。通常のベアリングが持つ微小な内部すきまを、軸方向にあらかじめ力を加えておくことで詰めていく、というのが基本的な考え方です。
予圧はガタの除去だけでなく、剛性の向上にも直結します。アンギュラ玉軸受や円すいころ軸受では、剛性を高める目的で予圧を与える組合せ方として、背面組合せの軸受が多く用いられます。これは軸受の作用点間距離が大きくなることで、軸系の剛性が大きくなるためです。
背面組合せに予圧を与える(内輪を軸方向に締め付ける)と、2つの軸受がそれぞれわずかに変位し、内輪間のすきまがゼロになります。この状態から外部の軸方向荷重が加わっても、変位量を小さく抑えられるのが予圧の効果です。
予圧を使う代表的なベアリングには、アンギュラ玉軸受、円すいころ軸受、高精度モータの前後軸受などがあります。ガタ取りを検討する際は、まずこの予圧という基本概念を理解しておくことが出発点となります。
ここからは、軸方向のガタ取りを実現する具体的な方法を、代表的な3つのアプローチに分けて解説します。用途や求める精度・剛性によって適した方法が異なるため、それぞれの特徴を押さえて選定してください。
組合せアンギュラ玉軸受による方法は、軸方向ガタ取りの代表的な手段です。アンギュラ玉軸受を複数組み合わせ、内部に適正な予圧を設定することでガタを除去します。
組合せには主に3つの形があります。背面組合わせ(DB)は、両方向のアキシアル荷重とラジアル荷重を受けられ、高い剛性が得られる組合せで、内輪を軸方向に十分締めることで予圧が発生します。
正面組合わせ(DF)は、シャフトやハウジングの同心度が出しにくい場合に使われ、外輪を軸方向に締めることで予圧が発生しますが、シャフトの熱膨張で予圧量が増加する点に注意が必要です。
並列組合わせ(DT)は、一方向の高いアキシアル荷重を受けられる組合せです。
また、予圧の与え方には「定位置予圧」と「定圧予圧」があります。定位置予圧はスペーサやシムなどで位置を機械的に固定する方式で、高い剛性が得られます。定圧予圧はばねによって一定の力を与え続ける方式で、温度変化や負荷変動に対して安定しやすい特徴があります。求める剛性と使用条件に応じて使い分けます。
シム・スペーサ調整による方法は、部品間に薄い調整部材を挟み込み、内部すきまを微調整してガタを取る手段です。スペーサ調整方式では、ベアリング間のスペーサを研削し、内部すきまをゼロ〜負に調整します。一方、シム調整方式では、シムプレートを用いて0.01〜0.1mm単位で微調整を行います。
この調整に使われるのがシムリングです。シムリングとは、精密機器の調整や公差吸収のために使用される極薄の金属リングのことで、機械部品の間に挟み込むことで、わずかな隙間を調整したり、部品間の位置を微調整したりできます。
厚みは0.01mmから0.1mm程度の極薄板が一般的で、材質はステンレス、銅、真鍮、鉄、アルミなど用途に応じて選べます。軸受けや回転機構では、これを構成する部品間の累積誤差を吸収し、スムーズな動作を実現するために使用されます。
ミクロン単位の精密な調整が可能な点が大きな利点で、標準サイズが決まっているワッシャーと比べて、用途に合わせた柔軟な調整に向いています。
ナット締付けによる方法は、軸に取り付けたナットを締め込むことで予圧を与える手段で、円すいころ軸受の予圧でよく使われます。締付け量によって予圧を調整できるため、比較的実装しやすい方法です。
ばね(スプリング)による方法は、皿ばねやコイルばねを使って一定の力を維持する定圧予圧の代表例です。温度変化や組付け誤差に強く、負荷変動が少ないというメリットがあります。
なお、予圧量そのものの調整については、軸受メーカーが軽・中・重の3種類の予圧を段差量を変えて供給していますが、それとは別に、内外輪スペーサの幅を段差加工することでも予圧の増減が可能です。求める予圧レベルに応じて、締付けやスペーサ幅による微調整を組み合わせて対応します。
軸方向のガタ取りが実際の装置でどう実現されているかを、直動位置決めを担うボールねじの固定構造を例に見てみましょう。ボールねじは送りのガタを除去し、軸の左右方向の荷重に対してねじ軸が変位しない構造が求められます。
代表的な構造では、軸方向のガタを組み合わせアンギュラ玉軸受によって除去します。組み合わせアンギュラ玉軸受は、2個の軸受を背面合わせにして、両軸受の内外輪が軸方向に密着し、そのガタを除去する機能を保証した軸受です。
この組み合わせには外輪に電気ペンで「X」の印が付けられており、組み合わせ方向を間違えないよう組み立てる必要があります※。アンギュラ玉軸受の軸方向剛性には「重荷重」「軽荷重」などの種類がメーカーから供給されているため、ユーザーはこの中から用途に合わせて選定します。
※合マークの形状はメーカーにより異なるため、作業前に確認しましょう。
固定は、外輪を「押さえ」によって締め上げ、内輪を内輪固定ねじでねじ軸の凸部側面に押し当てる構造で行います。一方、反対側の軸受には深溝玉軸受が使われ、その内輪は拘束のないフリー構造※とすることで、ボールねじの伸びに対して内輪とねじ軸が滑るように配慮されています。
(※ねじ軸が回転する場合、回転荷重を受ける内輪はしまりばめが原則で、内輪をすきまばめにして滑らせるとクリープのおそれがあります。熱膨張は外輪をすきまばめにし、軸受ごとハウジング内で滑らせて逃がす構成が一般的です。)
このように、ガタを除去する側と熱膨張を逃がす側を役割分担させるのが実装のポイントです。
軸方向のガタ取りで最も注意すべきは「予圧のかけすぎ」です。予圧はメリットばかりに見えますが、条件によっては大きなデメリットを生みます。最も重要なのが発熱の増加で、そのほか摩耗が早くなる、トルクが増加してモータの消費電力が増える、寿命が低下するといったリスクがあります。予圧のかけすぎは「焼付き」と「早期破損」の代表的な要因であり、予圧が高すぎるとほぼ確実にベアリング寿命が短くなります。
そのため、予圧量は次のようなポイントを踏まえて判断することが大切です。軸受の許容回転数、剛性要求(求める加工精度)、作動温度、使用するグリースやオイル、そして軸受の組付け精度(芯出し)です。特に芯出しは必須であり、これらの条件を総合的に見て、必要十分な予圧に留めることが、精度と寿命を両立させる鍵となります。ガタを取ることだけを優先せず、機構全体のバランスで判断してください。
スラスト(軸方向)のガタ取りは、予圧によって内部すきまをゼロ〜負に調整することが基本です。方法には組合せアンギュラ玉軸受、シム・スペーサ調整、ナット締付けやばねによる方式があり、用途や求める剛性で選び分けます。
ボールねじでは背面組合せと押さえ・固定ねじによる構造が実例です。ただし予圧のかけすぎは発熱や寿命低下を招くため、許容回転数・温度・芯出しなどを踏まえた適切な予圧管理が欠かせません。
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引用元:特注シム製造センター.com(https://www.shim-manufacturing-center.com/)
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引用元:ハヤシ(https://www.hayashinet.co.jp/shim/)
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引用元:岩田製作所(https://www.iwata-fa.jp/html/option/sm28.html)
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